旅に本はつきものというのは、今までにも触れてきた。インドには遠藤周作『深い河』、ポルトガルには宮本輝と吉田修一。
ロケ地巡り的要素ではなく、もっと深い部分で読書を通じて旅先を知ろうとした私の初めての経験はタイだったと思う。
パタヤにハマる
タイは間違いなく私が今まで一番数多く訪れた国だ。気候も食事も出会う人たちも大好きだし、日本からそう遠くないのに圧倒的な異国感がある。1〜2日休みをとって土日と組み合わせれば週末だけでも充分リフレッシュできる。
これだけタイが好きになったのは今から15年ほど前に遡る。職場の同期がとんでもなく旅慣れた子で、彼女と一緒にタイの魅力に取り憑かれたのだ。バンコクのスワンナプーム空港からバスでパタヤに直行、たった2泊の弾丸旅行。
パタヤと言えば、私の世代はお笑い番組『笑う犬』で「はいはいはいはいはい100円」がおきまりフレーズのパタヤビーチのコントのイメージが強く、ちょっとだけ憧れの場所でもあった。初めてパタヤを知ったその時から約10年、まさか本当に自分がパタヤへ行けるとは、大人になった実感がしてとても嬉しかったのを覚えている。
パタヤはリゾート地ではあるが、バンコクよりも物価が安くのんびりしている。男性向けの店も多いが、女性の私たちは当然キャッチに付き纏われることもなく、観光客として全く相手にされていないのもまた心地良かった。
オープンエアのお店でシーフードを食べ、ぶらぶらと海沿いの露天をひやかし、歩き疲れたらマッサージ屋に入る。それだけで充分だった。
本を読んで周りを見渡す
そんな弾丸旅行が定番になってきた頃、タイへの眼差しがガラリと変わる3冊の本に出会ってしまった。
ラッタウット・ラープチャルーンサップ『観光』
タイで育った著者による短編小説集。タイ人の暮らしが垣間見える
梁石日『闇の子供たち』
貧困の先にある売春・人身売買・臓器売買をテーマにした長編小説
石井光太『物乞う仏陀』
物乞いをする路上生活者たちを見つめ、一緒に過ごすノンフィクション。
どれも私にとっては衝撃的な作品で、何も知らずに今まで無邪気にタイを訪れていた自分が恥ずかしく、恐ろしく思えた。タイを嫌いになることは決してなかったが、同じはずの場所で見える景色は今までとは全く変わった。
行きの飛行機内で卑猥な話題で酔っ払う日本人のおじさん達。昼間の街で手を繋いで歩く白人男性とタイ人女性。道端で歌う盲目の男性。
どれも、今までもいたはずなのに見ようとしていなかった自分に気がついた。
「旅行」が「旅」に変わる
その国により深く興味を待ち、知ろうとするようになってから私は、旅行者から旅人になったと思う。
リゾートを消費するだけの旅行者になる時だってある。でも私はやっぱり、それが決して良い側面だけでなかったとしても、そこに生きる人たちを少しでも知りたい。だから本を読み、映画を観る。
あの頃一緒にタイに通っていた友達は今は子どもがいて、一緒に昔のような旅はできない。私はパタヤからバンコクに場所を移し一人旅を続けている。屋台でご飯を食べ、ぶらぶら歩き、疲れたらマッサージ。あの頃と何ら変わってはいない。しかしポケットには、歌う人に出会った時の為にいつもコインを用意している。
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